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第二言語(英語)学習における不安に関するバイオメトリック評価

 バイオメトリクスとは、解剖学的・生理学的・心理学的特徴に基づいた記録方法である。バイオメトリクスのツールの一つとしてGDVが挙げられる。GDVは個々人の生理・精神情動に関する機能状態を評価するツールである。

 第二外国語の学習は、母国語としない言語を学習することであり、英語は現在の国際語であり、英語を習得するための方法が幅広く研究されてきた。アメリカ合衆国においては、多くの人が英語を母国語として話すが、留学生は大抵このような英語環境に置かれたとき、様々な不安を経験する。留学生の1/3~半分は、第二言語を習得する過程で不安を覚える状態を経験していることが最近報告されている。第二言語を学習することにおける不安という現象は、学習の達成や言語運用に否定的な影響を与えることが、研究により確認されている。

 この不安に関する評価方法は、心拍率や血圧のような生理測定法、行動観察、学習者へのインタビューやアンケートなどがあるが、ジャクソン州立大学では、先行研究を基に、GDVを使用することによって、第二言語習得における不安を定量化及び視覚化できることを仮説付けた。

 言語学習における不安とストレスのような精神情動の側面は、手の平や指の汗を増加させたり、筋肉の緊張などの生理レベルとして現れる。このような生理レベルを基に、仮説を検証するために、GDVを使用して、試験的研究を実施した。

〔GDV技術を用いるESL学習過程の試験的研究〕

 ジャクソン州立大学のESLI(ESL施設)のトルコ、ベトナム、中国出身の留学生4名が我々の研究に進んで参加してくれた。第二言語を学ぶ上で最も習得しにくいのはリスニング能力だという我々の推測に基づき、まず初めに聴覚理解不安の研究をすることを選んだ。この試験的研究における我々の仮説は、非ネイティブスピーカーである彼らは、特にリスニングセクションにおいて英語での言語作業に関連した不安の表現を増大させるだろうということである。全ての生徒は、ELSIのELSコースにおいて中級レベルで登録されていた。学生は治験審査委員会(IRB)に従って同意書にサインし、IRBのガイドラインに従って本実験の目的と進行が説明された。7名募集されたが、GDV測定の第一段階に参加したのは4名だった(実験プロトコルを理解できたのが4名だけだったため)。
 我々は、GDVによって学生の指先の周辺の電子光学放出の静止画をリスニング学習の前後に測定した。

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図1 リスニング学習を受ける前後の4人のESL被験者のアクティベーション係数の分布
(上から、被験者1、被験者2、被験者3、被験者4)

 画像の記録は、フィルター無・フィルター有で行われた。アクティベーション係数、インテグラルエントロピーという二つのパラメータが分析され、これらは学生被験者の不安測定のための潜在的指標として考えられた。
使用されたアクティベーション係数に基づく不安のスケールは0~10であり、これらは主に4つのパートに分けることが出来る:0~2(低レベルの不安)、2~4(通常レベルの不安)、4~8(高レベルの不安)、8~10(ディストレス、変性意識状態)。リスニング試験を受ける前後に測定した、4人の被験者のアクティベーション係数が図1に示されている。この図で見られるように、4人の被験者の内、3人のアクティベーション係数は、テスト前に高く、テスト後に低くなっている。3人のアクティベーション係数は、5.37から4.66(13%減)、2.43~2.13(13%減)、5.42~2.06(62%減)とそれぞれ減少した。4人目の被験者に関しては、アクティベーション係数は試験の後に増加した(2.97~3.28に10%の増加)。我々は、リスニング学習の後に値が上昇するという予測をしていた。しかし、4人の被験者のうち、3人はリスニン学習の後のアクティベーション係数の増加が見られなかった。

 したがって、使用したアクティベーション係数は、ESLリスニング学習における不安評価には使用することが出来ない。しかし、スピーキングやリーディング、ライティングのような他の言語活動のための不安評価の測定としてアクティベーション係数が使用できる可能性は無視できない。

 一方で、インテグラルエントロピーの分布は、見込みのある結果を示した。インテグラルエントロピーとは、生理的、または精神情動的な要素におけるバランスの逸脱の指標である。インテグラルエントロピーに基づくスケールは主に4つに分割される:0~1(低レベルの不安)、1~2(通常レベルの不安)、2~4(高レベルの不安)、4以上(非常に高レベルの不安)。図2に示されるように、人間の脳の右半球に対応する左手のGDV画像を使用することで測定された被験者4人全てのインテグラルエントロピーは、試験前に得られた値と比べると試験後に増加した。学生被験者のインテグラルエントロピーは、1.77~2.08(18%増加)、1.77~1.90(7%増加)、1.73~2.06(19%増加)、1.58~1.76(11%増加)とそれぞれ増加した。したがって、少なくとも我々の試験的研究における結果から証明できる、リスクニング学習における第二外国語として英語を学習する上での不安の測定としてインテグラルエントロピーを使用することが出来る。

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図2 リスニング学習を受ける前後の4人のESL被験者のインテグラルエントロピーの分布
(上から、被験者1、被験者2、被験者3、被験者4)

 不安の測定としてインテグラルエントロピーを用いる我々の選択は、複雑系の科学や第二言語習得における文献からの推察によって正当化される。最近の文献から、右脳は、あまり馴染みが無く、訓練をしていない言語の学習に関わっていることが発見された。

 ラーセン・フリーマンによると、言語学習とは、ダイナミック、複雑、オープン、自己組織的、感受性によるフィードバックプロセスによる奇妙なアトラクタによって構成されている。新しい言語を学ぶことは非線形的なプロセスであり、例えば生徒がなじみ深い言語を聞くと、言語運用に心地よさを感じるが、先生が新しい言語を導入する瞬間、学習の進歩を促すどころか生徒の言語運用は堪能さを失う。なぜなら、生徒が心の中で構成された言語システムが新しい馴染みのない言語の導入に集中しているからである。したがって、一定な期間は、不安というカオスの状態が頻繁に続く。特に、新しい単語が導入されたとき、生徒は認識と理解のために言語システムを調整しなければいけない。インテグラルエントロピーは、不安というカオスの状態について個々人の生理的及び精神情動的な面からの変動を評価する。

 最近の研究結果は、言語処理に関する堪能レベルは、脳の半球によって重要な違いがあることが示され、人間の右脳がより関わっていることが示された。したがって、経験や訓練の少ない第二言語学習者のエントロピーの増加に影響を与えることが示された。我々の試験的研究の結果は、上記の発見に実証的な証明をすることを前提としたもので、第二言語としての英語のリスニング学習が人間の右脳の機能を活性化していることを示す。人間の脳は、言語の意味や音声の特徴を分析する原因となる。