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水滴の形による発光の違い

 GDVで水を測定するとき、1mlのシリンジ(針なし)を用います。シリンジで適量の検体を吸い、シリンジ先端で水滴を作ります。この水滴に電磁場を適用させ、水滴から放出される発光を測定するのですが、この時の水滴の形によって、発光に違いが見られます。

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シリンジから水滴を出す時は上記の①②のような出し方があります。

①の時

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特に動画測定において、徐々にこのような花火のような発光が見られます。

②の時

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①でみられる花火のような発光は見られず、比較的発光の形が安定しています。

 検体を測定する場合は、水滴の出し方にも留意する必要があります。基本的に、水滴はマイクロピペットを用い、シリンジ先端に「つける」方法を用います。

「水に電気が流れる」とは

 「水に電流が流れる」とは、水中に含まれているイオンが電気を通すということです。水中のイオンは電気を運ぶ車のような存在です。例えば純水はほぼ電気を通しませんが、純水に塩化ナトリウムを加えると(塩水を作ってやると)、塩化ナトリウムは直ちにナトリウムイオンと塩化物イオンに電離し、これらのイオンによって電気を通すことができます。加える塩化ナトリウムの量が多いと、水中で電離するイオンの量も増えます。電気を運ぶ車が増えるので、たくさんの電気を流すことが出来ます。

 一方で、純水も全く電気を通さないわけではありません。水分子の数で考えると、水分子5億個あたり、1つの水分子が水素イオンと水酸化物イオンに電離しています。ですので、このほんの僅かなイオンによって、電気を通すことが可能です。

 GDVで純水に0.5秒間、電圧をかけ測定すると、ほとんど発光が観測されません(非常に僅かな発光が見られます)。ですが、動画測定(30秒以上、水滴に一定の電圧をかけ続ける)を行うと、発光が徐々に大きくなります。これは、長時間の電圧印加により、水滴の絶縁性が破壊され、どんどん電気が流れるようになる状態を意味します。

 純水より更に理論的な「水」に近い水を超純水と呼びますが、超純水は別名「Hungry water」と呼ばれ、どんなものでも溶かしてしまいます。超純水を実験で用いるはずが、測定環境を整えておかないと、超純水の物性はあっという間に変わってしまいます。実験に必要な水の取り扱いは充分に留意する必要があります。

懸滴法によるGDVの水測定

 GDVで水を測定する場合、以下の三種類の測定方法があり、溶液の特性に応じて使い分けます。

●シリンジを使う測定方法
●プレートを使う測定方法
●ガラス管を使う測定方法

水を測定する場合はシリンジを使うことが多いです。

シリンジを使う測定方法

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 シリンジを使う測定方法は、懸滴法・液滴法と言われます。水は表面張力が大きいので、シリンジから水滴を出してもなかなか落下しません。懸滴法の場合は、シリンジから出した半球の水滴に電磁場をかけることで生じる発光現象を測定します。

▼20%の塩化ナトリウム水溶液の発光画像

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▼上記画像を、明るさ別に色分けした画像

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▼20%の塩化ナトリウム水溶液の発光動画

http://gdv.reimei.tv/water-blog.avi

動画での測定は、静止画測定より多くの情報を得ることが出来ます。

米国物理学協会で発表されたGDVの文献

 12万人以上が所属している大規模な物理系学会である米国物理学協会の応用物理学学術雑誌に、2001年・2004年にGDVの文献が発表されました。

2001年
●Concentration dependence of gas discharge around drops of inorganic electrolytes

2004年
●Time dynamics of the gas discharge around drops of liquids

 2001年に発表された文献では、発光パラメータの数学的な導き方、様々な濃度の溶液の発光パラメータの解析について、2004年に発表された文献では、懸滴測定方法における動画測定による発光パラメータの計時変化が研究結果が報告されました。
 両文献とも、GDVによる水の測定に関する基本的な内容が論じられており、GDVの科学的な考察をする上で重要な文献です。

水の比誘電率

 物質に対し、外から電場をかけると物質内部に電荷の偏りが生じます。この現象を誘電分極といいます。誘電分極は二種類に分かれます。

ⅰ)電子分極
物質内の電子や原子核が外からの電場によって僅かに移動する分極
ⅱ)配向分極
分子内にある永久双極子が外からの電場によって回転し、配向が揃う分極

 分極の大きさは、比誘電率を用いて表すことが出来ます。水の比誘電率は約80であり、他の物質に比べて非常に大きい値を示します。

 GDVで水を測定する際、シリンジから水を懸滴する測定方法を採用する場合は半球の水滴が電磁場に暴露され、水滴内で分極が発生します。GDV測定結果は、分極作用と強く関係することが、GDV基本書にも掲載されています。

参考
<タイトル>
基礎からわかる水の応用工学
<編集>
日本学術振興会「水の先進理工学」に関する先導的研究開発委員会

<タイトル>
現代界面コロイド化学の基礎 原理・応用・測定ソリューション
<編集>
日本化学会

吸着とGDV測定

吸着

 ある物質を水に溶かした時、その物質は液体界面か、液体内部に分布することになります。界面に分布することを正吸着、内面に分布することを負吸着と呼びます。例えば、純水に塩化ナトリウムを溶かした場合、塩化ナトリウムは純水内部に分布します。溶質が無機塩の場合は負吸着になるからです。この場合、界面は純水に近くなります。

GDVによる無機溶液測定

 GDVは、測定物に0.5秒間の電圧をかけ、瞬間の放電状態を測定する「静止画測定」と、最大で32秒まで測定物に電圧をかけ続けることが出来、放電状態の計時変化を測定できる「動画測定」があります。
 GDVを使用し、様々な研究者が静止画測定・動画測定を行い、異なった種類・濃度の無機溶液を測定しています。溶液の測定に関して、静止画測定では違いが検出されなかった溶液の比較において、動画測定で違いが検出されるという特徴があります。

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 上記は、2004年の応用物理学会で発表された文献に掲載されている同濃度の塩化ナトリウムと塩化カリウムの発光面積の計時変化です。0.5秒の静止画測定ではこれらの違いは検出されませんでしたが、8秒間の動画測定をした場合、0.3~6秒の間で統計的有意差が検出されました。

静止画測定では検出されない無機溶液の違いが、動画測定で検出されることは、興味深い内容です。
最初、負吸着によって溶質が分布されていなかった界面に電圧をかけつづけることによって、溶質分布の移動が発生し、発光面積に影響を与えた可能性が考えられます。

参考
<タイトル>
Time dynamics of the gas discharge around drops of liquids
<著者>
K. Korotkov, E. Krizhanovsky, and M. Borisova
D. Korotkin
M. Hayes, P. Matravers, K. S. Momoh, P. Peterson, K. Shiozawa, and A. Vainshelboim
<所属>
University of ITMO, Concordia University, Aveda Corporation
〈出典〉
応用物理学会(2004年)

GDVによる水の測定の種類

液体測定では、液体の特性や種類に応じ、「シリンジ」「ガラス管」「プレート」による三種類の測定法方法からユーザーが選択することができます。

シリンジによる測定
三種類の測定方法の中で最も高感度だとされています。溶液の特性によって使い分ける三種類のシリンジがあります。

ガラス管による測定
溶液はもちろん、粉末も測定することが出来ます。

プレートによる測定
揮発性溶液(オイル)やエマルジョン(乳濁液)、モルト(麦芽)などの測定が出来ます。

GDVによる水の測定理論

 生体を測定する時は指を電極として測定します。GDVレンズと指の間に不平等電場を作り出し、指から電子の放出による発光(放電)を促し、GDVカメラがその様子を捕えます。GDVが捕えている放電は、雪崩放電と沿面放電の二種類があります。

*雪崩放電(電子雪崩)
電場の中で自由電子が気体分子と衝突すると新たな電子が叩き出され、これが電場で加速されてさらに別の分子と衝突して加速度的に電子数が増える現象です。

*沿面放電
絶縁体の表面に沿って発生する放電現象です。

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▼水の測定の流れ
水滴の入ったシリンジから、水滴を押し出す。

GDVレンズに取り付けてある金属格子とインパルス発生器によってGDVレンズと水滴の間に高電磁界(EMF)を作る。

水滴と高電磁場が相互作用を起こし、水滴表面から荷電粒子、光粒子の放射が発生する。これらの放射は、高電磁場の影響で増幅・加速され、気体放電が発生する。

この放電の様子は、光学システムによって撮り込まれ、CCDカメラによって撮影される。

CCDカメラで撮影された内容は、ビデオ・デジタイザーに送られ、デジタルデータに変換される。

デジタルデータに変換された放電の様子(GDVグラム)は、GDVカメラに接続されたコンピュータに送られる。

水の測定の場合(シリンジでの水の測定の場合)、指ではなく水が電極となる。水滴とGDVレンズ
の間に不平等電場を作り出し、水滴から荷電粒子の放出を促し、それを発光として捕える。

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GDVによる水の測定

 近年、水は様々な分野において、処理を施され、ニーズに応じた利用をされています。また、最近の研究で、水中の成分以外の要因、例えば磁場などにより水の性質が変化することを示唆され、成分分析以外の測定機器の必要性は高まってきています。そんな中、私たちは水の新しい測定手法としてGDV技術を提案します。

 GDVは、「GDVとは 」の記事にあるように、気体放電視覚化(Gas Discharge Visualization)の略で、気体放電視覚化を意味します。生体を測定する場合は、下図の左側のように主に手の指を用います。一方で、水を測定する場合は、下図の右側のように測定する水をシリンジから水滴として適量押し出し、電磁界に曝すことで生じる発光現象を解析します。

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 GDVでの水の測定の特徴は、従来の元素分析技術とは異なり、「水の機能」を測定する点にあります。この技術により、現代科学では理解が困難な水や溶液の理解が深まる可能性を有しています。

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